『保健室経由、かねやま本館。』(第1~3巻)
 松素めぐり/著 おとないちあき/イラスト 講談社

寄贈本を読んでみました

『保健室経由、かねやま本館。』 (第1~3巻)
松素めぐり/著 おとないちあき/イラスト
講談社  

 あなたに悩みはありますか?

 『かねやま本館。』の舞台は、悩んでいる全国の中学生達が訪れる「トージバ」です。「トージバ」とは、「湯」で「治」す「場」所で、簡単に言うとお風呂屋さん。突如現れた謎の「第二保健室」の床下から通じる「かねやま本館」。温かく心を癒してくれるのはお風呂だけではありません。優しい女将の小夜子さんや(未だ謎な)キヨ、そこで出会った仲間達。みんなとの関わりは何よりも心を癒してくれます。でもそんな「かねやま本館」にも規則があり、入館証には有効期限も示されています。規則を破ってしまうと、もう二度と「かねやま本館」に行くことができなくなり、記憶も無くなってしまいます。

 『かねやま本館。』は、「かねやま本館」の謎や登場人物の気持ちなど、次が気になってどんどん読み進めたくなります。登場人物の心の中の葛藤が繊細に描かれていて思わず「頑張れ」と応援していたり「そうそう」と共感していたりします。年齢が近いことも共感する大きな要因なのかも知れません。けれど小学校中学年なら「自分が中学生になったらどんな生活を送るのだろうか」と未来を想像し、興味を持つきっかけとして読むことができて、中学校を卒業している人達にも中学生だった時のことを思い出すきっかけとして読めると思います。一番共感できるのは中学生くらいの読者だとしても、沢山の人の中学生時代を考えるきっかけとして読んで欲しい本です。

 私は、正直学校が嫌いでした。特に嫌だったのは休み時間で、楽しいはずの休み時間も友達が少ない私にとってはクラスメートに話を合わせることも多かったからです。勉強も教科書を見れば答えが書いてあることがわかっているから学校に行く理由がないと思っていました。だから学校に行かない日もあったし、教室に行かないで「保健室」に行くこともありました。勇気があったらちゃんと真っ直ぐ教室に向かっているのに、行けなかった自分は勇気がなかったということ。そんな自分が嫌でした。でも、『かねやま本館。』を読んだら、次は頑張ろうと思わせてくれたし、安心させてくれた。そんな本に出会えたことがとても嬉しいです。

 最後に、『かねやま本館。』を通して感じたことを三つだけ伝えたいです。本の内容とはあまり関係はないかも知れません。一つ目は本を紹介してもらったことについて。ご近所さんに「読まない?」と勧めてもらったのですが、そのご近所さんと仲良くなった理由は本だったのです。本があったから繋がった縁もあるのだと再認識しました。二つ目はこれまでの経験により読む本は左右されるのだと分かったことです。今まで本を読む時はなんとなくで選んでいたのですが、今回読もうと思ったきっかけが「保健室経由」という題名のワードでした。教室に行くことができなかった頃は「保健室」に居ることが多かったため、「保健室」というワードに興味が惹かれやすいのだと分かりました。けれどもし「保健室」に居ることが少なかったら「保健室」というワードに惹かれることもなかったかも知れないため、紹介されても読んでいなかったかも知れないと考えたら、その人の経験によって変わってくるのだと実感しました。三つ目、本といっても様々な本があるのだと考えたことです。前回『蜜蜂と遠雷』の感想(第3期7号)に「本は新幹線みたい」と書いたのですが、『かねやま本館。』は新幹線とは違うのではないかと思い、もう一度考えてみました。そうしたら、大切なぬいぐるみのようだと感じました。苦しいことも楽しいことも全部見守ってくれて、いつまでも横にいて一緒に進んでくれる本なのではないかと思います。

 素の自分でいいんだと教えてくれた、頑張ろうと思わせてくれた本です。このシリーズは1巻完結型ですから、どの巻から読んでも楽しめます。ぜひ読んでみてください。

(2021年4月10日発行第3期9号に掲載)